在宅診療をしている高齢女性が高熱を出しました。(新型コロナウイルス感染症流行中の医療の1シーン)
2020/04/17
私が在宅診療で担当しているある高齢女性のことです。
高熱が出ているので、往診してほしいと連絡がありました。
<往診をしたところ>
私が往診をしたところ、咳はあまり出ていなかったのですが、顔色が悪く、38.5℃の熱があり、SpO2(経皮的酸素飽和度)は測定不能でした。
聴診上は著明な所見は認められませんでした。
動脈血採血をして、血液ガスを調べたところ PaO2 が 52、Na は 159 でした。
<肺炎の疑いがあり、救急車を呼ぶことに>
これらの所見から、肺炎の疑いがあり、かなりの脱水があるようですと説明しました。
ご家族と方針について相談し、病院を受診されることとなりました。状態が良くないので救急車を依頼することとしました。
<かかりつけのA病院は受け入れ可と返事>
今まで何度か入院したことのあるA病院に電話で問い合わせました。すると受け入れ可能と返事をいただきました。
診療情報提供書を作成したあと、ご家族に救急車を呼んでいただきました。
<救急車がやってきたが>
救急車が家の前まで来て、救急隊員がおりてきました。
すぐに患者さんを搬出するのかと思いきや、救急隊員が私に言いました。「熱が出ているんですね。帰国者・接触者相談センターには連絡されましたか?」
私:「いいえ」
救急隊員:「こんな場合にはまず相談センターに連絡することになっています。」
救急隊員が救急車に戻り、接触者相談センターに連絡をとっていたようです。
ちなみにこの患者さんのまわりには、新型コロナウイルス感染症の方はおられず、その可能性はかなり低いと私は考えていました。
<相談センターとやり取り>
20分後ぐらいに救急隊員が出てきて、次は主治医である私が、相談センターと話をすることになりました。
しばらくあとに相談センターから私に電話がかかってきました。
患者さんの状態についてやり取りし、A病院が受け入れ可能と返事をしてくれていることを説明しました。
コロナウイルス感染症の可能性が低いということであれば、A病院に搬送してくださいとのことでした。
相談センターから、A病院にも伝えておきますとのことでした。
<まだ続くやり取り>
私がこのことを救急隊に伝えると、救急隊員は司令本部からの指示がないと、搬送はできません。本部に確認しますので、しばらく待ってくださいとのこと。
救急隊員、救急司令本部、相談センター、A病院の4者の間でいろいろやり取りがあったようです。
30〜60分ぐらい待たされて、結局A病院が受け入れを断ってきたというのです。
救急隊が家族に説明しました。A病院が受け入れてくれないので、3次救急の病院を探すことになりますと。
<ご家族と相談>
ご家族が私に相談しに来られました。
かかりつけの病院が受け入れてくれると思っていたのに、断られてしまいました。
もっと大きい病院に行くと、それこそコロナの患者さんも多いだろうし、そこでコロナに感染してしまうかも知れない。病院に行かず、家で療養したほうがいいのでしょうか?
<結局病院には行かないことに>
メリットやデメリット、いろいろな可能性について説明しました。相談の結果、病院には行かず、この日は家で様子を見ることとなりました。
患者さんは、救急車にのせられていたのですが、搬送しないことになったので、救急車から降ろされて、自分のベッドに戻されました。
救急車が到着して、約2時間。すったもんだのあげく、結局病院には行かないこととなったのです。
<考察 また 今回の事例での教訓>
●発熱や咳のある患者さんが病院を受診することを考えている場合には、まず、帰国者・接触者相談センターに話を通すべし。
普通に話を通そうとしても、かなり時間がかかるようだが、救急隊が来てから相談センターに連絡すると、もっと話がややこしくなって、よけいに時間がかかるようだ。
●新型コロナウイルス感染症の可能性がゼロではない場合は、みんな非常に神経質になっていて、非常に手続きが煩雑になるようだ。
●高齢の衰弱した患者ということで、相談センターにも、受け入れ病院側にもできるだけ搬送したくない、入院させたくないという意図があるように感じられた。A病院やこの地域の医療体制の現状はよくはわからないが、患者の選別が始まっているのだろう。
●高齢患者さんの場合は、よほどの重症でない限りは、在宅での療養の方がいいのではないか。
院内感染のリスク。面会ができない。苦痛を伴う検査や治療が多いなどの理由から。
実際、この患者さんは、在宅で皮下輸液をしただけで、翌日には熱が下がり、状態はかなり改善しました。